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追悼 米谷美久氏

オリンパス「ペン」「OM」「XA」の開発者、米谷美久氏が逝去

オリンパスのペン、OM-1などの生みの親、米谷美久氏が亡くなった。

米谷氏は、俺にとってカメラに夢中だった頃のアイドルといってもいい存在で、カメラ雑誌などに載っていた逸話の数々を畏敬の念をもって読んでいたものだった。

以下に故人を偲び、記憶しているエピソードを振り返ってみることにしたい。



初代PEN開発エピソード

新入社員当時、先輩社員からしばらく時間をつぶす目的で与えられた「安価な大衆向けカメラを設計してみろ」という、いわば研修課題に応えて設計したのが初代のPENだという。そのカメラは(新人の設計としては異例に)発売に向けて開発がスタートしたが、外装デザインもデザイン会社の案に満足せず、自分で描きおこしたそうだ。米谷氏の設計したカメラは、機能としての独自性もさることながら、外装デザインまでも自分でやってしまうところがすごい。しかも、そのデザインは当時も今も、多くの人が魅力を感じるものになっている。

しかし、そうして苦労して開発したPENは、いざ発売という段になって「そんなに売れないだろうから月産台数は少数で」と言われたそうだ。今となっては笑い話だが、当時の若い米谷氏は相当憤慨したそうだ。



PEN-F開発エピソード

ヒットしたPENを受けて、「ハーフ判の一眼レフ」という世界に全く例のないカメラを開発することになった米谷氏は、「ハーフサイズで大きなカメラになっては意味が無い」と思い、フランジバック(ボディのマウント面からフィルム面までの距離)を短くするため、ミラーを横開きにする案を考えたそうだ。フランジバックを短くすると、ボディを薄くできるからだ。しかし、ミラーを横開きにするということは、ファインダーまでの光路も横になってしまう。そこでペンタプリズム(普通の一眼レフ上部にある尖った部分に収まっているプリズム)ではなくポロプリズムを採用したという。さらっと書いてしまったが、「ミラーを横開きにする」とか「ポロプリズムを採用」とか、驚きの発想だ。

次にシャッターだが、米谷氏はやはり小型化するために(スペースの必要な)横走りフォーカルプレーンではなく、円形の板が回転するロータリーシャッターの導入を考えた。ロータリーシャッターそのものはPEN-F以前にアメリカのMercuryというカメラでの採用例があるが、一眼レフに採用された例は無い。シャッター板として金属の板を高速に回転させるため、「薄くしても壊れないこと」という相反する素材が必要になったが、アルミや鉄ではすぐにひしゃげてしまい、相当苦労したらしい。そこで、採用したのがチタンだ。今でこそチタンはよく知られた金属だが、PEN-Fの発売された1963年当時は一般人は名前すら知らない希少金属だったはずだ。高価なだけでなく、加工が非常に難しいことでも知られるチタンだが、これを極薄のディンプル加工にすることで、ようやく使えるものになったらしい。

こうして苦労して開発したPEN-Fはドイツのフォトキナ(カメラの展示会)で発表されたが、米谷氏はライツ社(現ライカ社)の技術者から質問攻めにあった後、「すごいカメラを作ったな。おめでとう」と言われたそうだ。独自性を重んじるライカの技術者らしいエピソードと言える。



OM-1開発エピソード

米谷氏が考える「一眼レフの三悪」、「大きい・重い・うるさい」を改善するために設計した、OMシリーズ初の一眼レフ。当時「世界最小最軽量」だった。「小さなボディだが、操作性を考えて操作部材はむしろ大きくした」という通り、レバーやダイヤルは大きめだ。

ボディを小さくするため、一眼レフで通常デッドスペースとして使われないミラーボックス下部にシャッターガバナー(速度調節装置)を配置している。その位置にあるガバナーと連動するため、シャッターダイヤルはマウントの根元にリング状に配置するという、他に類を見ない設計になっている。単に「仕方なくこの位置にした」のなら意味が無いが、マウントの根元はカメラを構えたときに自然に左手を添える位置にあり、シャッター速度の変更がやりやすいというメリットを生んでいるのも素晴らしい。

また、ミラーショックを緩和するダンパーも、通常のダンパーパーツを入れる場所が無く「障子が倒れるとき、最後はゆるやかにパタンと倒れる様子をヒントにした」というエアダンパーを採用しているのも独創的だ。

小さなボディで最も影響を受けるのはファインダーで、ペンタプリズムの小型化=ファインダー像の倍率や視野率の低下になってしまうのが普通だ。しかし、ファインダーをおろそかにしてはいけないと考えた米谷氏は、通常、ペンタプリズムの下に配置する集光コンデンサーレンズを省き、ペンタプリズムの下部を曲面加工するというアイディアを考えた。これにより、ペンタプリズムをボディのより下部に埋め込む小型化に成功、OM-1独特の美しいフォルムとなった。しかも、倍率0.92倍、視野率97%という小型一眼レフでは考えられない大きく、広い視野をもつファインダーを得ることとなったのだ。



OM-2開発エピソード

OMシリーズ初の電子制御AEカメラだが、米谷氏はここでも普通のAEには飽き足らず、(またしても)世界初となるフィルム面反射のTTLダイレクト測光を搭載した。

「フィルム面反射のTTLダイレクト測光」とは、撮影開始後、シャッター幕が開いてフィルムに光が届き、フィルムからの反射光を測定、適切な露出になったらシャッターを閉じる、という仕組みだ。メリットは光の状態が頻繁に変化するような被写体、長時間露光が必要な被写体でも適切なAE撮影が可能なこと。またシャッターが開いてから発光するフラッシュ撮影においても威力を発揮する。

OMシリーズのカタログ(うちの部屋のどこかに埋もれてるはず)には「宇宙からバクテリアまで」という有名なキャッチコピーが書かれていたが、長時間露出になる天体撮影や、露出計測が難しい顕微鏡撮影でもダイレクト測光は確かに有効だ。

だが、ダイレクト測光は「どんなフィルムも反射率は同じ」という前提で成り立っているため、フィルムの種類で反射率が異なると露出がばらついてしまう懸念がある。そこで、米谷氏は「世界中からありとあらゆるフィルムを集めた」という。膨大な実験の結果、「どんなフィルムも反射率は同じ」ことが確認できて、無事にダイレクト測光を搭載できたということだ。



独創的な発想の数々と使いやすさの追求、そして美しいデザイン。これらを一人で成し遂げた米谷氏の偉業には、今振り返っても驚かされる。もちろん、カメラは一人で全て作れるわけではないし、(氏の著作『「オリンパス・ペン」の挑戦』を読むと)社内的には強い反発もあったらしい。しかし、いちカメラ好きとしては、素直に畏敬の念を抱かずにはいられない。

オリンパスから今後も米谷イズムを継いだカメラが生まれることを願いつつ、氏のご冥福を祈る。

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